昨年から暖めていた海洋博物館は、未練もなくあっさりと消し去り、アメリカに勝つためには力ではないことを知った。幾つかの案を先生に見せて２つの案に絞られた。丸中正義の「虹伝説」と、ヘミングウェーの「老人と海」。
　老人と海は、年老いた漁師が強大なカジキマグロを釣り上げるのだが、港に帰るまでにサメに襲われて身のほとんどを食われてしまう物語だ。この老人はヘミングウェーだ。ヘミングウェーの人間像を建築にする案。
　虹伝説はレインボーゴブリンという絵本が元になっている。７色の色の妖精が虹を食べる物語で、丸中正義はそれを１枚のアルバムにした。この虹の妖精の住み家をデザインする案。
　虹伝説は、絵本と音楽を同時に建築で表現するので、作品としては分かり易く説得力がある。しかし絵本の中の住み家は洞窟のようなところなので、近代建築に置き換えるには強引な展開がいる。一方の「老人と海」は思想の世界だ。「釣り好きのヘミングウェーってこんな建築でしょ」って見せることになる。

（本作品はフィクションであり、登場する人物・団体名等はすべて架空のものです。但し、作中で言及している物語の背景の建築や建築家等の人物や団体名は、現実に存在していたり、または過去に存在しておりました。また、原作は2004年4月刊行の「退職届」です。）