建築を引き渡す前の最後の検査の出来事である。工事の終盤に施工社検査、設計事務所検査を終えた後の施主検査だ。施主から、アルミサッシュ枠のビスの未施工箇所を指摘された。万吉のチェックミスだ。言い訳を考えていると、工務店の当時の専務の神野さんが「設計事務所さんの検査の時に指摘されていました。」話は続く。「建築は完成した時から崩壊が始まるのです。姫路城をはじめとして日本のお城はわざと未完成箇所を残すと言います。サッシュ枠のビスは、特に大きな問題にならないと思ったので未完成にしました。気分を害されたのなら直ぐに施工します。」と言うと、施主は「問題がなければ、このままにしましょう」と言われて収まりました。専務さんに助けられ、知識と知恵を授かった。
追記:2015年3月24日改装工事を終えた姫路城がグランドオープンした。その時に姫路城は未完成であるとテレビで紹介されていた。家紋の飾りが一つだけ逆になっている。他に、乾小天守(いぬいしょうてんしゅ)の火灯窓(花頭窓・かとうまど)が未完成。「物事は満つれば後は欠けて行く」という考えに基づき未完成状態(発展途上状態)を保つそうだ。
(本作品はフィクションであり、登場する人物・団体名等はすべて架空のものです。但し、作中で言及している物語の背景の建築や建築家等の人物や団体名は、現実に存在していたり、または過去に存在していたものも含まれています。また、原作は2004年4月刊行の「退職届」です。)