日曜の連載28

2020年2月9日 /

 修学院の住宅が終盤を迎えた時、次の仕事を言い渡された。小さな混構造の住宅のプレゼンテーションである。先生がテレビに出演して、それを見ての依頼であった。「がんばれば担当させてやる」と先生からの激励。図面を描き、模型を作った。眠い。睡眠時間が3時間でも規則正しければ体調は維持できる。しかし仮眠も取れず、全く3日間ぶっ通しで作業をした。出発数分前に完成し、スーツに着替えてネクタイを締める。初めてプレゼンテーションに連れて行ってもらえるのだ。先生の奥さんが「靴が汚いな。足元見られるよ。ちょっとその靴脱ぎ。」と言って、万吉の靴を磨いた。当時のスタッフは先生の奥さんに靴を磨いて頂いたり、スーツにブラシをかけて頂いたりして、気合いを入れられる事は珍しくなかった。「がんばりや」と励まされ、私は紺色の新車に先生と最年長の先輩の早羅さんを乗せて施主の待つ箕面へ向った。居眠り寸前運転である。
 プレゼンが始まり眠気が頂点に達してくる。先生の説明する声も聞こえない。足の指を踏みつけたが眠気はとれない。強烈に足をつねっても効き目がない。カッターで刺さないかぎり無理だと思ったとき、先生が車で待っていろと言った。万吉は後のことは考えずに車で寝た。
 帰りの運転は早羅さんに変わってもらった。プレゼンは成功したが先生も山田さんも機嫌が悪い。当然である。万吉は施主の前で居眠りしたからだ。帰った時の先生の顔色を見て他のスタッフは「万吉はクビだ」と確信したと言う。実は私もその時、覚悟していた。
 この仕事はその後、地盤調査を行い建設不可能である事が判明し進展しなかった。万吉の初プレゼンは、失敗とも成功とも判定されず、居眠りの責任も問われることなく終わった。その後先輩の慰めの言葉で、テレビや雑誌を見て依頼された飛び込み仕事は、実現の確率が悪いことを知った。

(本作品はフィクションであり、登場する人物・団体名等はすべて架空のものです。但し、作中で言及している物語の背景の建築や建築家等の人物や団体名は、現実に存在していたり、または過去に存在していたものも含まれています。また、原作は2004年4月刊行の「退職届」です。)

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